こんな綺麗すぎるシメを、僕は予想していなかった。
わずか数時間前の出来事なのに
写真を見て、ようやく思い出せる 「あぁ現実だったんだな・・・」
チームバスに3時間ほど揺られ、メッシーナという所に行った。
到着すると2人の審判が早くも球場入りしてスタンバイをしていた。
「あぁ・・・やっぱり今日はキャッチャーできないな」
あきらめてロッカールームで着替えていると
監督からスタメンの発表が始まった。
「1番、キャッチャー、ヤギ」
どよめく僕。
「いや、無理だよ!審判いるんだし」
ところが監督は
「多分問題ないよ。後で審判に聞いてみるけど」
とあっさりしている。
チームメイトも僕に「良かったな!」と言う者もいれば
監督に「やっぱマズいんじゃないか?」
と言っている者もいる。
いや、相当マズいだろ・・・
そして球場入りし、監督が審判に話す。
そして監督、僕の元へ「OKがでた」と言いに来る。
すげぇ・・・しかし、いいのか!?
審判が僕に歩み寄り、理由を教えてくれた。
「おまえはキャッチャーだったのか!?
いつもおまえ内野やってたよな。
それで今日がイタリア最後の試合だってな。
リーグ戦だったらキャッチャーやらせてあげられないけど
このトーナメント戦で、おまえら2チームは次に進まないってオレは知ってるし
それに今日、相手チームで1人遅刻して来たヤツがいて
そのために試合時間遅らせてるんだよ。
本当なら不戦敗で、もう向こうの負けなんだよ。
だから今日はおまえキャッチャーやってもいいよ。
ただ、相手チームに許可をもらわないとダメだけど」
そして相手チームの監督
「いいよ。オレは最近までセリエAでプレーしてたんだけど
生で日本人のキャッチャーなんて今まで見たことないよ。楽しみだ!」
と許可をくれた。
僕、渾身のガッツポーズ!
そしてチームメイト全員が僕の頭を叩きに来た。
みんな僕がキャッチャーをやりたいことを知っている。
「おうヤギ!そんなにキャッチャーがやりたいなら
おまえイタリア人になれよ!そうすりゃ毎回キャッチャーができるぞ!
イタリア女と結婚すりゃ、おまえもイタリア人だ☆
駅前に毎晩立ってる女を俺が紹介してやる!
ちなみにイタリア人じゃないけど! がははは(笑)」
こんな感じの少々ブラックな会話が普段飛び交っていた。
ついに、イタリア女と結婚しなくてもキャッチャーができる(笑)
そして試合。
22-0。5回終了時点で相手チームがギブアップしたために
本来はどんな点差でも7回までは行うのに、5回で終わってしまった。
なので、僕のキャッチャーとしての出場機会も5イニング。
5イニングとは言え、いつもはフォアボール連発の我がチームのピッチャー相手に
0フォアボールで乗り切り、そして彼の完封劇に加担し
僕は僕で、3塁ランナーをキャッチャー牽制で刺し
チームメイトもヒいた「しまっていこー!」を何度か発し
審判に「楽しんでるな!」とまで言われ
9月の中旬のくせに脱水症状まで起こすというおまけも付けといた。
完璧な、祭りだった。
試合後、6回から投げる予定だった我がチームのエースに
「今日はおまえとバッテリー組めると思ってたのに
試合が早く終わっちゃってできなかったな。残念だよ。
でも、来年はオレとおまえでバッテリー組めるんだよな!?」
と、返答に困る一言をもらい、胸がいっぱいになる。
そういえば今日はイタリアでのラスト試合だった。
言うことないです。もう、何されてもいい(笑)
シチリアの野球狂たちに感謝☆