えぇ。今日はなんだか朝からおかしかったんですわ。
明日の仕事の服装が
「スーツまで堅くなく、それでいてジーンズまで砕けてない感じ」
という、実に微妙なオーダーで
そんな準備、東京からまったくして来なかった身としては
「買わなきゃなぁ・・・」と軽く憂鬱だったんだけど
ここは考えを変えて、せっかくだから質の良いシャツとか買っちまおうと。
多少高くてもシャツなんて当分使えるだろうしという甘い算段で
値札も見ずに購入したシャツが100ユーロ。(15000円くらい)
日本だったらちょっと高めかな?で済む金額かもしれないが
ここでそんなシャツ、マ●ィアか服狂いのゲイしか買いませんよというレベル。
しかしなぜか何の気にも留めずあっさり購入。
そしてそれに合うパンツなんかも買って、うきうきで帰宅。
途中、パレルモで1番高くて1番美味しいと僕の中で思っているハム屋に行って
生ハムやらチーズやらを買いまくる。
だいたいこっちのチーズやハムって日本とは比較できないくらい安いんだが
なんせとっておきのその店でも、選りすぐりなハム連中を買ったせいで
5000円くらい使っていた。こういう感じで、何か今日はおかしかった。
夜、家で友人と食事。
彼は日本の子で、ここで料理人として働いている。
イタリアから見たら、食材の全く恵まれていない日本という土壌で
10年近く腕を磨いた彼が作る
ここイタリアの食材をふんだんに使った料理は、掛け値なしに超絶品だ。
おそらく今シチリアで1番腕の立つ料理人とは、彼のことを指していると思う。
そんな彼が仕事の休日を利用して、僕だけに料理を作ってくれる。
もうそれは、極上のひとときであるーーー
「せっかくだから写真でも撮ろうかー?
あー、ちゃんとした皿買ってくれば良かったなぁ~」
とかノリノリで部屋からカメラを持ってきたときに
カメラのなかで「カラカラ」と音がした。
気のせいだと思い、それでも気になったのでシャッターを切ってみる・・・
「画が半分写らねぇ・・・・・・」
シャッター関連の不具合だ・・・ヤバイ、ここでは修理なんて・・・
北部の修理センターに送ったあと、1ヶ月ほど後に直るかどうかの返事がくる
そして手元に戻ってくるのは、その1ヶ月後・・・有り得ない。
しかも仕事仲間がイタリアで直しきれなかった機材を
僕が日本に持って行って修理を依頼したところ
「この機材、私共の前にどなたか開けていませんか?
そのかたの分解の仕方が酷くて元に戻せないんですよー。
元々の故障部分は簡単に直せるんですが・・・」
実話である☆もう修理とかそんなレベルじゃない。
明日の仕事をどうするか・・・もうそのことで食事どころじゃなくなってしまう。
そして完全にテンパっているので
その壊れたカメラで撮影を試みている僕がいる・・・もう必死である。
鬼のようにシャッターを切りまくっているうちに故障ヶ所完全判明・・・
「あ、ここが壊れてるのならなら撮れないこともない・・・
でも仕事で使うのは完全に無理だ・・・明日は・・・」
それがわかってもシャッターを押し続ける。
さっさと仕事仲間に電話しろよ、という冷静な考えは微塵も浮かばない。
続けざまに、今日買ったシャツも撮った。
茫然自失なくせに、シャツのシワを必死に消そうと試みている。
そして頭の中では、ファインダーに写る画が良いものなのか全く理解できない。
しかし、あぁでもないこうでもないと動きだけはやめない・・・
その姿はおそらく、悪あがきという言葉がぴったりだっただろう。
いやーな汗を背中にかきながらシャッターを切った。
ここパレルモの仕事では大活躍だったカメラがもう使えない・・・
ここでカメラを買うんだったら、飛行機で日本に飛んで
買ってしまったほうが安く済む・・・
しかしさすがにこの時期に東京行きは・・・
で、彼女に電話。あわよくば彼女の来パレルモに合わせて
持ってきてもらえるかもしれない。
絶望からかすかに光が見えた。期待で膨らむ。
「あのさ・・・パレルモにいつ来るんだっけ?」
「ん?7月かなー」
・・・頭が真っ白になるとはこういうことを言うのか。
とりあえず自分を落ち着かせるためにワインを開ける。
イタリアにいるからこそ飲める超高級ワイン。
まったく味がしなかった・・・