チームパレルモはビックリするくらいに仲が良い。
イタリア語をまったく話せなかった僕が、すんなり仲間入りできたのも
チームのみんなが和を大事にしているからだと思う。
しかし僕は、入団してから約半年間、写真上の彼とほとんど口を利かなかった。
2人ともキャッチャー、ポジションが同じだったのだ。
お互いにプライドがあったんだと思う。
21歳と若い彼だけれど、もう正捕手になって3年以上。
イタリア語もろくにしゃべれず
いつこのチームを離れるかもわからない人間に
易々と今まで守ってきたキャッチャーを取られたくなかっただろうし
僕だって
「オマエが生まれる前からキャッチャーやってんだよ!よこせ」
という気持ちがあった。
ところが半年後、イタリア野球の協約で
外国人キャッチャーを認めないという決まりができ
僕はキャッチャー以外のポジションをこなさなくてはいけなくなったのだが
それを境に、今までの関係を取り戻すほど仲が良くなった。
「ヤギ、親とか友達と離れてて寂しくないか?
もし寂しくなったらさ
オレたちみんなで外出しような。ディスコ行こう!」
このセリフを彼から何度も聞いた。
その度に僕は、なんとも言葉に出来ない気持ちになる。
去年の開幕戦のこと
相手チームがホームプレーで、明らかにアウトになった後
彼に向かって不要なタックルをした。メジャーリーガーがやる、あれだ。
僕は日本でこれを受けて左ヒザを壊している。
医者からはもう治らないだろうと言われた。
そんな理由があったからでもないが、そのときカンドを守っていた僕は
そのタックルをした対戦相手に向かって走っていき、トビ蹴りをかました。
(ヲタク的に言うならジャンボ鶴田のジャンピングニー的だった・笑)
このとき僕が相手チームに何を言ったか覚えていない。
きっと頭に血が上っていたし、まともなイタリア語はしゃべれていないだろう。
でも審判は相手選手のみを退場にした。
そして僕はこの一連のアクションで、チームメイトたちのハートをがっちり掴み
チームの和に入れた・・・なんてことはない(笑)
もう充分すぎるくらい仲が良かったし、むしろこのプレー後
ベンチに戻るとアメリカ人選手から
「ヤギ・・・おまえはヤ●ザなのか?」と真顔で聞かれ
そして他の選手が「ん?ヤ●ザってなに??」
「いいか、ヤ●ザって言うのは、シチリアで言うところの・・・」
と、日本のカルチャートークのネタになった程度だった(笑)
ただ彼からは「ヤギは本当にキャッチャーなんだなぁ」
と言われ、その彼からの言葉で僕は
『キャッチャーで試合に出たい』という気持ちからケリをつけられた気がする。
この前、彼が病気のために試合を欠席した。
キャッチャーの代わりは誰もいない。
代わりに入った選手は奮闘したが
とても彼に匹敵する仕事はできなかった。試合は惨敗。
僕が知る限り、シチリアで彼以上のキャッチャーはいない。
いま、このチームの『要』は彼だ。