イタリアンコネクションの快進撃は留まるところを知らない。
午前中、身体を動かそうと思い、野球場の周りをランニングしていると
球場内で何かやっている声がしたので、開いているゲートに勝手に入って
観客席から球場内をのぞいてみた。
すると球場内に20人くらいの人間が、練習用のユニフォームを着て
ランニングしたり、筋トレしたりしていた。
なんとなくその光景を観客席から眺めていると
球場内から僕に向かって走ってくるオッサンがいた。
僕が彼を見つめていると「ワタシハ ホルへ トモウシマス!!」と
僕に向かって挨拶してきたので
日本語で「こんにちは!!」と返事する。
彼はものすごい満足そうだ。
彼に、球場内にいる選手みたいな人たちは誰なのか聞いてみると
「“ヴィヤ・クララ”の1軍の投手陣だけど、キミ、イタリア語しゃべれるの?」
と聞いてきたので「ハイ」と答えると
オッサンは『ちょっと待ってろ』と手で僕に合図し
はるか遠くの球場裏に消えて行った。
そして10分ほど後、オッサンはさらに数人のオッサンを連れて来た。
僕に向かって「アキハバラ!アキハバラ!!」と大声で叫んでいるオッサンや
両手を合わせて、首を前後にペコペコ
外国人が必ず日本的だと間違える挨拶を僕にするオッサンがいたり
すごい流暢な日本語で「ドウモ、コンニチハ!ゲンキデスカ!」
と話してくるオッサン・・・みんな満面の笑みをたたえている。
そして1人が「オマエ、なんでイタリア語話せんの?」
と聞いてきたので「シチリアに住んでいました」と答える。
「そうなのかぁ!オレたちはみんな今イタリアに住んでるんだよ!
春になるとイタリアでは野球が始まるから、それの指導をしに行くんだ。
それにみんな日本に何度も行ったことあるんだよ!!」
「僕もイタリアで野球をやってました!!」
「え!!そうなのか!!!!!!」
そして色々とイタリアの話をしているうち、1人が
「おい、観客席にいないでグラウンドに降りて来いよ!」
と、僕を球場内に招いてくれた。
『え?入っちゃっていいの??』と、躊躇した表情を僕が見せると
『平気平気』とみんなは手招きしている。
支持されたゲートから球場内に足を踏み入れる。
野球場の芝の香りが気持ち良い。
そして先ほどのオッサン連中のところに行き、握手をする。
そしてまたイタリアの話で盛り上がる。
「オマエが来る前に、イタリア野球の話をしてたんだよ!
あのな、俺リボルノの野球チームの監督やってんだけど
去年のある試合でな・・・」
イタリア人審判の素行についてキューバ人4人、日本人1人で大盛り上がりだ。
「僕なんか、こんな3塁牽制食らって、アウトを宣告されたことあるよ!」
と僕が実演すると、キューバ人たちは大爆笑だ。
「で、オマエのチームの監督は何て抗議したんだ?」
「そのプレー自体観てなかった・・・」「ギャハハハ、ダメだそりゃ!!!」
みんなで腹を抱えて笑う。
あの国の野球を知る者たちの、なんとも言えない一体感を
ここサンタクララで味わう。
そして先ほど、異常に流暢な日本語の挨拶を僕にした人に視線を向けると
“swallows”のアンダーシャツとユニフォーム(下)を履いていた。
「なんであなたはスワローズのユニフォームを着ているの!?」
「数年前までスワローズに指導者で、東京に行っていたんだよ。
ナカムラ知ってるか?彼は本当に良い人だ!!」
誰だ?ヤクルトのナカムラ?? すまん、知らん!!
「でも今は俺もイタリアに住んでいるんだよ。
みんな春から秋までイタリアで、そしてシーズンが終わったら
キューバに戻って、ヴィヤ・クララと合流するんだよ。
オマエも春にはシチリアに戻るのか??」
「いや、まだ決めていない・・・
今度はイタリア以外のヨーロッパでプレーしてみたい」
「そうかそうか。でオマエ、どうしてこの球場に来たの?」
「球場の周りをランニングしてたら音がしたので、入ってみた」
「いつまでサンタクララにいるの?」
「再来週くらいまで」
「毎日ランニングするのか?」
「たぶん・・・」
「じゃ、グラウンドの中走れよ。今ここにいるのはみんな投手陣で調整だけだし
みんなほとんどランニングしかしないから
オマエもそういうトレーニングしたいんだったら
ここの器具とか自由に使っていいよ。
もう少し前にサンタクララに来ていたら
野手陣が遠征に出る前だったから、練習に入れてやったんだけどなぁ。
いま野手陣はみんなサンタクララにいないからなぁ。
2月までここに帰ってこないんだよ。残念だなぁ」
ええええええええっ!!!なんかすごい話してないか!!
とりあえず、この球場使っていいのか!!!
そして、もう少し早くサンタクララに来ていたら
“神様・パレッ”と練習してたかもしんないのか!!!!
めっそうもございません、そんな恐れ多い・・・
こんなキレイな球場の芝生でランニングできるだけで満足でございます・・・
さっそくランニング。みんな各々に筋トレなんかしていて
かなりのんびりした雰囲気だ。
僕が走り寄ると「やあ」とか挨拶してくれる。
そして「ハロー、ジャパン!ハロー、ジャパン!!」と口ずさみながら
僕をものすごいスピードで抜き去っていった大柄な選手が
このチームのエースだそうだ。なんか呑気な雰囲気だなぁ。
選手がポツポツと球場から消えて
球場には僕と数名くらいしかいなくなったので
僕もトレーニングを止め、みんなにお礼の挨拶をした。
「今度は金曜日にまた同じ練習をここでやるんだけど、オマエ来る?」
「もちろん!!!」
「じゃ、またな!!」
「それじゃ!!!」
僕は球場を後にする。
出口でさっきのエースピッチャーがチビッコたちに囲まれて
話をしている。チビッコたちは彼を憧れの目線で見上げている。
そこを通り過ぎるとき、エースに「またね」と言ってみた
「お~ジャパン!またな!!」
その声に手を振って答えながら球場を出た。
なんか僕、キューバの野球選手になったみたいだ!!
歩きながら、快心の笑みが止まらない。