このまえの日曜日の話だ。
大きな溝ができてしまったこのチームが
また元に戻るためには、やっぱり勝つことだった。
亀裂のきっかけになった選手と、それに噛み付いた数選手は
試合に来ないだろうという話を他の選手たちから試合前に聞いた。
たかだかエラーでここまでになってしまったなんて
何かバカバカしく感じる。
でももう試合が始まってしまうので
球場にいる選手たちにはどうにもできない。
そして準備運動を始めようかというころになって
その選手たちがぽつぽつとやってきた。
亀裂のきっかけになった選手はキャッチャーマスクを手にして球場入り。
そうだった、今日はいつもこのチームのキャッチャーを務めていた選手が
ケガをしてしまって試合に出られないんだった。
誰もやりたがらないキャッチャーを、彼は自ら進んで志願したのか。
「今日はオマエがキャッチャーか!いいな、僕と替わってよ」
僕は彼に冗談を言う。
「ヤギ、オマエには負けねぇ!
あ、ミット貸して。アイツ(正捕手)のミット使いづらくて」
なんとなく「あぁ、もう落ち込んでない。彼は大丈夫だな」
という感じがした。
その彼とケンカをしてしまった数名もベンチにやってくる。
そっけない挨拶をしていたのだけれど、なんか「もう終わったんだな」
という気がした。
試合。
我がチームのエースが久々に戻ってきた。
家庭の事情で中々今シーズンは試合に顔を出せなかったようなのだが
練習にはいつも出席していた。
球が軽快。何よりフォアボールが出ない。
相手のレッジオは打撃が売りのチームなのだが、凡打を重ねる。
サードを守っていた僕とショートにボールが集まる。
僕はぼこぼこのグラウンドと闘いながらも、なんとか0エラーで乗り切った。
試合は均衡した。
チーム・パレルモ、常に2点リードのままお互いに点を重ね
9回表を逃げ切ればパレルモの勝利というところまで突入。9-7。
最初のバッターが僕の左横に鋭い打球を打つ。
僕は横っ飛びでその球を抑え、ファーストに送る。1アウト。
いままでキャッチャーしかやったことのなかった僕が
おそらく生まれて初めてやった横っ飛びアウト。
勝手に身体が飛んでいた。
「僕は集中できている」そう感じた。
そして味方ベンチと野手から大歓声。
その表情が「俺たちはいける」という顔つきだった。絶対に勝てる!
しかし2アウト、ランナー2塁で
レフト前にヒットを打たれてしまう。
僕はこのプレーのときにレフトの中継をしていた。
レフトが僕に球を投げて、僕がホームベースに投げるというプレーだ。
2塁ランナーの飛び出しが良く
もうホームに投げても間に合わないと判断したので
僕はホームに投げる偽投をしたあとに
ヒットを打った選手が1塁を蹴って、2塁に向かったのを確認。
僕はそのランナーを追いかけ、挟み、タッチアウト。
試合終了、9-8。 パレルモ勝利!!!
その瞬間、選手が僕のところに集まってきた。
「おぉ!さすがクソニッポン!!バカイエローモンキー!!!」
みんなで熱い抱擁。
監督までがダッシュでその輪に加わりみんなで飛び跳ねる。
先週のふがいなさを忘れるくらいの喜びようで
いままで溜まりまくったストレスを大発散。
もう訳がわからなくなるまではしゃいだ。
そしてみんなでベンチに戻るとき、
先週ケンカをした選手たちがお互いにもじもじした口調で
「・・・悪かったな」「おう、オレも悪かったな」と短い会話をしている。
僕はそれを背中で聞きながら
今日このチームに貢献できて本当に良かったと思った。
僕のその日の打撃成績4-0。2三振、1ゲッツー。
イタリアに来てこんなに最悪の成績は初めてだ。
でもそんなことは本当にどうでも良かった。
10回の守備機会を全て無難に、
そして最後まで「今日は絶対に負けられない」という
チーム全員の想いを感じながらプレーした。
そんな暑い、熱い1日だった。