突然の転機。
午前中にケイタイが鳴った。野球の事務所からだ。
「ヤギ、今日と明後日の夕方から練習するから。」
この電話をどれだけ待ちわびたか
これでやっと野球ができる・・・
僕は、試合まで1週間を切っても
エンジンのかからないみんなにイライラしていた。
グラウンドには一番手で入った。
1人でランニングをしていると
また1人、もう2人と次々に選手が現れた。
みんなでそろってランニングをする。
走りながら、それぞれバカンス中はどこに行ったか?を報告しあう。
小学生の夏休み明けみたいだ。
その後キャッチボールをして、バッティング、ノックをこなす。
休み明けか、身体が重い。
個人的には可能なかぎり色々とトレーニングしていたつもりなのだが
やはり生きたボールを扱うのとは勝手が違った。
足腰、肩の動きが異常に悪い。
「休みの間、アレだけ個人練習やってた僕がこんなだから
他の選手なんかはもっと・・・」
と周りを見わたすと、なぜかみんな軽快だ。
は??なんで???
僕が1番身体のキレが悪くないか??
そして練習の合間、1人の選手が僕に言った。
「おいヤギ、マツイがメッツ相手にヒット打ったぞ。
アイツは元々メッツのマツイだろ??
今日の深夜に衛星放送で録画番組やるから観ろよ。」
キミが話しているマツイは、ヒデキじゃなくてカズオのほうか!
8月は今週まで全く練習が無かった。
その間、素振りをしたり
身体を動かしていたのは僕だけだと思っていた。
今度のトーナメント戦、もうチームの為じゃなく自分自身のために
なんてことも考えたし
やることやって、さっさと日本に戻ろうなんて
ネガティブな気持ちにもなっていた。
そんな間、彼らは深夜の衛星放送でメジャーリーグを観戦し
トーナメント戦に向けて、着実に身体を作っていた。
一方の僕は、試合数日前だというのに勘が全く合っていない・・・
むしろエンジンがかかってなかったのは僕のほうだった。
シチリアにいる野球狂とは、僕のことじゃない。彼らだ。
練習後、球場内の照明を修理している人たちがいた。
「ヤギ、なんで照明直してるんだ?誰か有名人のコンサートでもあるのかなぁ??」
・・・おい(笑)
そう、僕たちのコンサートが始まる!!