彼は外に出る撮影の無い日に、ここで色々と作業をし
その合間に来るお客さんの現像をしたり
証明写真を撮ったりする。
彼はシチリアでは非常に有名なカメラマンなので
証明写真とはいえ、お客さんがひっきりなしに現れる。
1日に30~40人ちかく来ているんじゃないだろうか。
今日僕は、彼のお店で作業していたのだが
彼が銀行に行かなくてはいけない時間になったので
僕が1人で留守番をした。 だいたい1日に1度はこういう状況が訪れる。
そしてお客さんがやってきた。
「証明写真を撮って欲しいんですけど」
僕は奥の撮影部屋にお客さんを連れて行って撮影した。
さらに立て続けに別のお客さんにも証明写真を撮る。
そして撮影を無事こなし、画像をプリンターで紙にしようとしたとき
予期せぬことが起こった 「な、なんだよこの機械・・・」
以前まであったプリンターの場所に、見たこともないプリンターが置いてある。
使い方がさっぱりわからない。あわてて仕事仲間に電話する。
しかしこういうときに限ってつながらない・・・
仕方がないので僕1人でなんとかしようと思い、機械と向き合う。
機械には「FUJIFILM」と書いてある。 「なんだ、日本製じゃん」と
妙なところで安心し 液晶画面の「language」のところを日本語に替えてみようとするが
なんと日本語がない!さらにはイタリア語も・・・
フランス語ドイツ語スペイン語・・・ 英語のままでなんとかやってみる。
すると証明写真とはいえないほどバカでかい写真や
妙に小さな写真ばかりが刷り上る。
しかもプリント時間が長い。だいたい2分くらいか。
機械をセットしてから刷り上りが見えるまでの この2分が永遠に感じた・・・
一向に適当なサイズが出てこない。
お客さんもさすがに「なんか遅いな」みたいな顔をしている。
これはどうにもならないと思い
お客さんのほうを向いて涼しい顔をしながら
「機械がうまく動かなくて・・・
今から10分くらいかかってしまいそうなんです・・・
10分後にお店に来てもらっていいですか?」
と努めて冷静に話す。 決して僕のせいではなく、機械に問題があるんだという表情で。
お客さんたちは納得してお店を一旦出る。
僕はホッとして、もう1度機械と向き合おうとしたが
また違うお客さんが、今度は家族3人そろって
それぞれ1人1人の証明写真を撮って欲しいと言ってくる。
いまの状況では・・・でも断る術もない・・・
笑顔で撮影を早々に済ませ、何食わぬ顔で機械のボタンを押す。
「くっそ!写真は良い感じなんだよ!!なんでプリントできねーんだよ!!!!」
もう完全に頭の中はテンパっていた・・・
そして機械の周りには、ゴミと化した写真たちが山のように増えていく
仕事仲間が戻って来る気配は微塵もない・・・
「このパターンもダメか・・・次は・・・」 そしてついにラッキーパンチがあたる。
証明写真サイズの写真がにょろにょろと機械から出てくる。
最初のお客さんの撮影を済ませてから30分弱、
勘のみで押し続けた機械の使い方をマスター。
前のお客さんの分もプリントし、カッターでカットする。
「証明写真4枚で5ユーロ(約700円)です」
青臭いけど、このとき手にした5ユーロが重たく感じた(笑)
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