街から街へ移動。
リトアニアでは、東西南北にどの方向にも適当に車をぶっ飛ばして
1時間ほどすると、違う街に移動できる。
だいたい街と街の間隔は100kmくらいか。
そして街と街とを移動する間、車から観ることのできる景色はひたすら森だ。
とにかく木、木、木。ただただ木。
そんな木々が続くなか、2,3ヶ所不自然に横にのびた小さな道がある。
舗装されていない土のままの道で、その道の先を見てみても
やはり木々が視界をさえぎっているので、何があるのかわからない。
例え行ったところで、ただただ森の中に紛れ込むだけで
楽しそうな予感は何も感じない。
ところが実際に先を進んでみると、必ずといっていいほど泉がある。
それは、「映画のセットじゃないの?」と
誰かに聞いてみたくなってしまうほどに美しくてビックリする。
ピタッと止まって澄み切った水は、とにかく透明で
中にいる小魚がちょろちょろと動くのが分かる。
きっといきなり妖精とか、そんなわけの分からない存在をここで見たとしても
僕は驚かないだろう。それくらいに異世界の空気を放っている。
そしてそんな泉がリトアニアの各地に点在しているのだが
その各地の泉沿いに、必ず1つはレストランがある。
だいたいどれも丸太小屋風に作られていて、木々に隠れるようにポツンと、
そして景色を壊すような看板も無ければ
趣味の悪い場違いな塗装もしていない。とにかく目立たない。
商売をする上では少々もったいない気もするが
考えてみたら、そもそもこの泉まで脚を運べる時点で
相当の土地勘が無いとたどり着けない。
そんな人たちは、当然このレストランの存在だってわかっているはずだ。
宣伝する必要はない。
いつも遠征後の帰り道、みんなとこういうレストランに寄る。
なので、僕は春からほぼ毎週
こう言ったレストランに通い続けていることになる。
毎週来ていると、このあり得ないシュチエーションに慣れきってしまって
感動が薄れるから不思議だ。
世界中どこに行ったって、お金をどれだけつぎ込んだって
そうそうこんな場所で食事ができるものではないのは
わかっているはずなのに。
だいたいリトアニアのこういう所で摂る食事は決まっている。
白米、トマト、そして肉。この3点を1つの皿にまとめる。
1プレート、日本のカフェ飯みたいな感じか。
肉にはバリエーションがあって
豚肉をバーベキューのように串刺しにして、香辛料を振りかけて焼いたもの。
牛肉を薄く延ばして、ステーキしたもの。
鶏肉をミンチにして固めたあと、パン粉で揚げてコロッケにしたものなど
何種類か存在する。
チームメイトとそんなレストランに訪れ、乾杯。
試合直後の移動なので、テンションが高い。
勝っても負けても試合の話で盛り上がる。
あまりネガティブな内容の会話はしない。みんな大人だ。
そして水分補給として飲んでいるビールが、どんどんテーブルから消えていく。
普段冷静でおとなしい彼らが解き離れた瞬間で、テーブル全体が
「がっはっは!!」という笑いで包まれる。
野球、泉、酒、そして仲間
これをシアワセと言わずして、僕は何のためにリトアニアに来たと言えよう。
遠く日出ずる国で、ドロドロの灼熱にまみれているみなさん
僕はいまシアワセです☆☆☆
しかしそんな僕の至福のひとときを一気にかき消す瞬間が訪れる・・・
ケチャップ。
あのな・・・味覚って言葉を知っているか?
しょっぱいって言うリトアニア語には存在しないのか??
料理がテーブルに届くなり
「ごめんヤギ。そこのケチャップとって」
と端々の選手から声がかかる。
それを渡すなり、彼らはどばどばと料理にかける。
その量たるや・・・
10人ほどいるテーブルに新品のケチャップが2本あったとして、
それは一気に消える。いや、たぶん2本では足らないだろう。
僕の目の前にも料理が届き、ナイフとフォークを手に取り
『さあ食べようか』とお皿を見つめる。
その瞬間、隣に座っているチームメイトがケチャップを持って
僕の皿にかけようとする。
かなりタイミング的にはグッドで
本当にリトアニアは気が利く人たちばかりだなとつくづく思うが
この状況では迷惑でしかない。
「い、いや・・・平気、平気。いらないから・・・」
丁重に辞退する。彼らの表情が曇る。
曇られても、やはりここは引くわけにはいかない。
「ヤギはケチャップが嫌いなのか?」
「そうだね。あまり好きじゃないかな・・・」
そういうことにしておく。
いや、彼らから見たら相当ケチャップ嫌いだろうな。
皿の上にある肉の横には、必ず8角切りなんかのトマトサラダが
最初から添えられている。それにも彼らはかける。
彼らはトマトとケチャップが同じ所から来ていることを知らないのか??
さらに衝撃的なのは、肉を食べる前にスープが運ばれてくるのだが
それにも彼らはドバッといく。
野菜スープなんかの表面が、一気に真っ赤に染まる。
う~ん、そんなかけなくったって最初から味ついてますけど・・・
言っても無駄か。
本当にここの人々は何にでもケチャップや、そういう類いのソースをかける。
例えばピザをオーダーすると、店員は当たり前のように
カクテルソースのようなものをテーブルに持ってくる。
そしてそれを、熱々のピザの上にドバッとかけて食べる。
どんな種類のピザを食べたところで、カクテルソースの味しかしない。
ジャンクと呼ぶにはあまりにもジャンク。ある意味、すげー発見。
ピザの作り方が、どの店もイタリアのピザ屋のレベルに近いほど美味いだけに
僕の中で凄みが増す。
そんなある日、立ち寄った小さなレストランで
テーブルにあったケチャップを使い切った彼らは
お店の店員に新しいケチャップを催促したのだが
なんと在庫切れで、もうこの店にケチャップは無いと言われてしまった。
そして彼らが取った行動は・・・
テーブルの上になぜか置かれてあった“しょう油”を代わりにドバッと!
本場の僕ですら、そんな量はかけたことないと言うくらいにドバッと!!
そして何事もなかったかのように
彼らはしょう油がたっぷりかかった肉を口に運ぶ。
しょう油問題ないのか?
イタリア人なんかは、あの豆の香りがダメとか言って
みんな敬遠していたのに!!
しかもあの量、肉の味がどうとかって言うより
もはやしょう油を食べているようなもんだろ。やっぱすげーな。
ありえない絶景に囲まれた中、気のおけない仲間たちとの食事は
意外と胸ヤケが伴うものである☆