大変ごぶさたしておりました、八木です。
こんなに長い間音信不通で何やっていたんだと?
野球です。 もう、野球漬け☆
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春から行われたリーグ戦を1位で通過した
我がチーム、カウナス・リトアニカは
プレイオフに進出していた。
2位通過、3位通過のチームによる
直接対戦で勝ち越したチームと
全5試合、先に3勝したほうが優勝できる
“リトアニア・シリーズ”に臨むことになる。
結果、ヴィルニウス・ロジポリヤとの対戦となった。
リトアニア・シリーズが始まる3日ほど前に
僕は自分の身体の異変に気がついた。
汚い話をしてしまって、アレだが
僕は極度に緊張した日々が続くと
唇は荒れ、その周囲に吹き出物ができる。
日本にいたときに仕事が立て込んでくると
たまにこうなっていたのだけれど
野球のためにこんなことになったのは初めてのことだった。
なんだか、たかだか野球でそんなになっている自分が
可笑しくなって、少し緊張もやわらいだのだけれど
試合数日前からの緊張感は、やはりハンパじゃなかった。
そして迎えたリトアニア・シリーズ第1戦、カウナスのホーム戦。
ほとんど身内のみとは言え、観客が50人ほど集まっていた。
観客たちも、リトアニア・シリーズを迎えて興奮している。
試合開始のときに起きた拍手がうねっていた。
僕は8番・ショートで出場。最近バッティングが絶不調で
打順をここまで下げてしまった。
ま、でも今回のリトアニア・シリーズでの
僕の役割は完全に守備だ。
それを僕が無難にこなすかどうかで
チームの勝敗が大きく変わってくる。
何度も言うがリトアニアでは
どこもグラウンドはぼこぼこで、エラーが日常茶飯事の状況。
しかも内野ゴロのほとんどがショートに集まる。
1日に5,6個などはあたりまえだ。
そのなかで3分の2無難にこなせば、かなりよくやったと判断される。
それくらいに過酷なポジションだ。
最近、僕はようやくリトアニア野球のショートに慣れてきた。
僕のやり方は、普通のショートのポジションよりも前に位置取って、ゴロに備える。
飛んできたら、とにかく身体の正面でゴロをおさえるようにする。
少々のイレギュラーバウンドには身体で止めて対応するためだ。
身体で止めさえすれば、例えゴロを取れなかったとしても
前進守備をしているので、急いでファーストに投げれば
なんとか間に合う。
さらには1球ごとにポジションを変える、しかもかなり極端に。
リトアニアのバッターは素直な打ち方をする選手ばかりで、
しかもすでに何度も対戦しているせいで
だいたいの選手のクセを把握できている。なので
「カーブにはここらへん。ストレートだったらここ」
と、かなり正確に予想が立てられる。
しかもロジポリヤの選手の打ち損じは
かなりの確率でショートに飛ぶのだ。
そして守備についた1回の表、いきなり守備機会が訪れた。
三遊間に飛んだ球にチームメートのサードが飛びついた。
しかし捕れなかったそのボールを、僕が身体を伸ばして補球して
ファーストに投げた。間一髪、セーフ。
そしてこのプレーで、気持ちが一気に楽になった。
おそらく普通だったら三遊間を簡単に抜けている当たりをなんとか捕球できた。
僕のポジション取りがうまくいっている証拠だ。
しかも身体が簡単にボールに反応できた。
「調子が良いな」
そう思ったら、緊張感で硬くなっていた身体の力が抜けて
リズム良く身体が動くようになった。
それ以降、僕に飛んできた9個の打球を全てアウトにした。
さてチーム・ロジポリヤ、ベテランぞろいで野球がうまい。
スピードの無さをバントなんかの小技でカバーする。
出塁したらとにかくバント。
例え打順がクリンナップであっても、その作戦は変わらない。
そして打者全員は徹底して“叩きつけるバッティング”。
超パワーヒッターぞろいのリトアニア野球では、本当に珍しい。
多分ベテランたちが考えた末に選んだ“叩きつけ”作戦なんだろうけれど
絶対に有効だ。このぼこぼこのグラウンドでは、ボテボテのイージーゴロが
イージーにはならないのだ。
1試合で10もショートに球が飛んでくるのは
彼らのそうした作戦があるからだと思う。
さらにロジポリヤのピッチャーたちは
それほど速い球を投げるピッチャーはいないのだけれど
とにかくどのピッチャーも低めに球を集め、フォアボールを出さない。
僕はこのチームと試合をするたびに
「日本っぽいなぁ」といつも思っていた。
そんな彼らが最も警戒というか、嫌がっていたのが
8番を打つ僕だった。
僕が打席に立つと、キャッチャーが「ヤギだぞー」と
指示を出す。お互いに試合で何度も顔を合わせているので
名前を覚えられているのは不思議なことではないのだけれど
僕対応の守備取りがあるらしく、キャッチャーの指示で
野手たちがせわしなくポジションを変えた。
それを見た僕は、気持ちの余裕が出来て
リラックスして打席に立てた。
この日のハイライトは第2打席。
ノーアウトランナー1,2塁の場面で
僕に出されたサインは送りバント。
守備体系を見ると、セカンドの選手が2塁付近に
張り付いて守っていたので
1, 2塁間ががら空きになっていたのを確認した。
僕はバントを1,2塁間に転がすように少し強めに決めた。
ぽっかりと空いたところにボールが転がって、
セカンドがそれを捕球するころには
僕はファーストベースに到達していた。ノーアウト満塁。
そして次の9番バッターのショートゴロ、エラーの間に1点獲得。
相手チームのショートはゴロに対してグローブだけを差し出していって
エラーをした。
僕はそれを見て、どんな状況でも身体全体で止めるようにゴロを捕りに行っている
自分のプレーに自信が持てた。
やっぱこのシリーズ、守備のキーは間違いなくショートだなぁ
このバントヒットで、相手ピッチャーは完全に僕に対して苦手意識を持った。
以降の3打席は全てフォアボールで歩かされた。
相手ピッチャーは、他の相手に対しては別にコントロールも悪くないし
勝負にきているのだけれど
どうも僕に対して相性が悪いと感じているらしく
全然ストライクが入らなかった。
試合は大接戦だった。
観客50人が常に大興奮で、やっている選手たちは皆
息詰まる表情で、1プレー1プレーに全力になっていた。
そして、その選手たちの中で、一番リラックスできているのが
多分、僕だった。
得点は4対3で迎えた9回の表、2アウト2,3塁。
そんな緊迫の場面で放たれた打球も、ショートを守る僕の前に転がった。
それをリズム良く捌きファーストに投げて、試合終了!
マウンドに選手たちが集まって、歓喜のハイタッチ。
そして僕がベンチに戻ると、監督が
両手を上げて、お辞儀するように身体を前後させる
最敬礼の踊りを僕に向かって繰り返した。
それを笑顔で見ながら
『多分、このシリーズのラッキーボーイは僕なんだな・・・』
そんなことを感じた。
第1戦、4対3。
2-1安打、3フォアボール。
守備、10-9アウト。