滞在5日間のうち、1日だけ仕事を休むことができた。
ちょうど日曜日だったので、チーム・パレルモの試合を観戦。
チームのバスに同行して、試合場所に向かった。
去年まで試合前に、当たり前のように乗っていたバスに今年も乗り込んだが
もう僕はここの選手ではない。なんだか不思議だ。
球場に到着し、試合前の準備体操とキャッチボールには参加したが
僕だけユニフォームではなくジャージだったので
対戦相手から「あれ、おまえ今日出ないの?」と聞かれた。
相手チームに覚えられていたんだなぁ。
試合開始。
今年のメンバーは・・・去年まで補欠だった選手がほとんど出場している。
去年までのレギュラーメンバーがほとんどいない。
そして新加入選手が2人。
1人はドミニカ人選手。
20歳と若く、まだチームメイトともなじめきれず
イタリア語もおぼつかない感じで、どこか数年前の僕を見ているようだった。
彼はセンターで6番を打つ。現在チーム・パレルモが出場する大会のほとんどが
“外国人登録はチームに1人まで”という決まりがある。
なので、彼がチーム・パレルモでプレーしている現在、
他の外国人を選手登録することはできない。
この登録期限の3月末、僕のところに監督から何度も連絡が来た。
「ヤギ、今年はパレルモでプレーしないな?」
「うん、しない」
「ホントだな??」
「うん、ホント」
「ホントに、ホントだな???」
4,5度繰り返した末に、監督はドミニカ人の彼を登録した。
そしてもう1人は、監督の息子だ。
彼はまだ16歳。
僕の抜けた内野のポジションと、僕が2年間ほぼ座り続けてきた
1番の打順を受け継いでいる。
彼にはまだイタリア人ピッチャーの投げる“重い球”を
外野まで打ち返す力はない。
俊足を生かして内野ゴロをうまく安打にするか
フォアボールを狙うくらいが精一杯だろう。
でもついに彼が野球を本格的に始めた。そのことが僕には本当にうれしかった。
ベネズエラからやってきた、バリバリの野球人の父から生まれた超良血の彼は
同時にイタリア人のお母さんからも、その強い血をもらっていたようで
サッカーをやらせたら相当に上手いらしく
たびたびその年代の選抜選手などにも選ばれているそうだ。
去年まで、球場に遊びに来ては僕らとキャッチボールなどをしていたのだが
明らかに野球センスは抜群で
僕は何度も彼に「なんで野球やんないんだよ!」と詰め寄っていたが
彼はいつも、ニヤニヤと笑うだけだった。
その彼が、ぎこちなく内野守備をこなし
まだ重すぎる大人用のバットに振り回されている。
おそらく9人の野球の試合に出るのなんてほぼ初めてなんじゃないだろうか?
今日だって人数が少なかったから出場できただけだろう。
それもで今のチーム・パレルモは彼を8番とか9番に置く余裕すらない。
相手チームも相当に弱い、そしてチーム・パレルモはそれ以上に弱い。
エラー、フォアボール、連係プレーのミス、凡打の数々・・・
なにやら果てしなく弱味に拍車がかかっている。
相手チームの一方的な試合展開のまま、ゲームはあっさり終わってしまった。
僕はこのシチリア滞在のあと、すぐにリトアニアに飛ぶつもりだ。
そしてリトアニアで野球をする。
でも、心のどこかに“戻れる場所”があった気があって、そこに安心していた気がする。
いつでもこのバカみたいに毎日毎日クソ暑い小島は
どんなときでも手を広げて僕を待っていてくれるものだと思っていた。
現に試合後、監督は僕に
「ヤギ、このチームには1番バッターとサードが特に足らないんだよ。オマエのことだよ。
戻って来い!!」
そう言ってくれた。
僕は違和感と感傷と、ちょっとした疎外感を心に持ちながら
一人、観客席から観戦していた。
大好きだった、あのパレルモのユニフォームを着てプレーしている新しいメンバーたちが
必死になってまったく新しいチームを産み出そうとしていた。
そうだ、いなくなったヤツや、ユニフォームを脱いだヤツのことなんか構わなくていい。
もうここには僕の席はないのだ。
僕は今年、いままでとは違う国で、いままでとは違う色のユニフォームを着て野球をする
ただそれだけの話だ。去年までの思い出は心の中にしまって
僕もチーム・パレルモも、前に進めばいいだけの話だ。たいしたことじゃない。
たいしたことじゃないんだけど、やっぱりちょっと感傷的になるなぁ・・・
試合後、選手たちとレストランに入って、食事をした。
アランチーノとジェラート、そしてビール・・・
いままで、試合後のこの瞬間は超至福の一時だった。
「おそらくいま僕は、世界で1番幸せだろう」と思ったりした。
でも今日は、汗にも泥にもまみれずにいたせいか
ビールの味がしっくりと来ない・・・
『しっくりさせるために、来年ここに戻ってくるか??』
本気でちょっと考えた。
やっぱ、何より最愛のあのユニフォームを僕が着ずに
他人が着てるのには違和感だらけなんだよ!! くっそ!(笑)
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