突然のサバイバル旅のはじまりである!
ハバナ行き・深夜バス12時間の旅!!!
並みの12時間ではない。
行程のほとんどで、まだコンクリートに舗装されていない砂利道を通過するので
大型バスが正体不明の大きな穴ぼこに落ちたりする。
座席にはトランポリンのような振動が絶えず訪れ、なかなかの座り心地だったりする。
さらに停車場所は、12時間中なぜか1ヶ所のみ。しかも停車時間は5分。
車内にはトイレが設備されているので
トイレ休憩なんか必要ないだろうというバス会社の算段か。
さっそくバスに乗る。
日本のような行き届いたサービスらしいサービスはない・・・いや、あった!
出発の数分前に、添乗員?のようなオッチャンが段ボールを小脇に抱え
乗客1人1人に何やら配り歩いている。
そして僕の手にもそれが・・・ラップに包んだパン1つ!
日本だったらハンバーグなんかで使いそうな円形のパンで、
見ると真ん中に切込みが入っている・・・
薄いばかりか、パンのサイズにおよそ似つかわしくない
気持ち程度の、ごく小量のハムが挟んである!!
サービスはこれ1つだ。ボトルの水もあわせて配るとか
そういう“西の”文化を導入していないあたりが、すごくステキだ☆
この、のどを通過させるのも大変そうなガリガリの硬いパンを
水なんかで口を潤わせたりせず、モクモクしながら食べる。
12時間でパン1つ、これがキューバ流!
バスが出発するなり、車内はビデオ上映の開始である。
バス自体は、日本の深夜バスなんかでも使われていそうなもので
テレビなんかも搭載されている。
上映されたビデオは、『トリプルX』!!
いちいちの大音量で、
「さて、そろそろ音楽でも聴くか」とか「本でも読むか」なんて
そんな裕福な余裕をこちらに与えてくれない。
他のことが全く何も手につかないのだ。
「仕方ないから観るか・・・」という感じで乗客全員が観ていた。
ビデオが終わり、2時間ほどの軽い監禁状態が解かれる。
耳障りな音が止み、ほっと一息している間もおかず
ビデオタイムは2本目に突入。なんと2本目は『あずみ2』!!!
先ほどパンを配っていたオッチャンが、最前列の自分の座席から立ち上がり
僕の座席のあたりをうろうろとやって来て
僕に向かって親指を「グッ」と立て、勝者の笑顔を僕に向ける。
『あずみ2』は乗客約30人の中から、僕だけを選んだ
オッチャンからのメッセージだった!!正直迷惑だ(笑)
スペイン語字幕なのだが、見たところ乗客は英語圏の方々ばかりなんですけど。
案の定、僕を除いた乗客は皆
殺陣のシーン以外は画面を逸らし
相変わらずの超大音量の中、一生懸命ほかの事をしようとしている。
そして殺陣のシーンが始まると、その手を止め
身体を起こしながら食い入るように見つめる。
僕の前にいたオッチャンは殺陣シーンになると
身を乗り出して「むぅうう~」とか言いながら、大興奮で上戸彩を観ていた。
そしてビデオが終わるなり、添乗員のオッチャンは僕の方を振り向き
僕が最後まで『あずみ2』を観ていたかチェックしている。
僕が「見た見た」と首を縦に振ると
向こうも満足そうに首を縦に振っていた。
オッチャン、あんたのチョイスは間違っている(笑)
ビデオタイムは終了し、時計を見ると出発から4時間が過ぎている。
ここまでは意外にも、まぁ快適な旅だった。
しかしこれから8時間、僕に地獄が訪れる・・・
ビデオの電源が切られ、替わりに車内のエアコンのモーターが一層強く回り始めた。
キューバの公共施設は過剰なほどにエアコンが効いている。
「なんでこんなに寒いの?」と思うほどに温度が低い。20℃は切っていると思う。
キューバに来て、もう40日を越した僕はそのことも充分頭に入れ
バスの車内に長袖のTシャツを持ち込んでおいた。準備万端である☆
いや、それすら誤算だった。長袖1枚を重ねる程度では
全く車内の寒さから逃れることは出来ないのだ!
車内は時間が経つにつれ、寒さを増していく。
「寒さを忘れるには・・・寝るしかない」
と、僕は手荷物のカバンをお腹に抱えるようにして、必死に寝ようと試みるが
寒すぎて眠れない。歯が勝手にガクガク言い出すわ
足の指先は冷たく感覚が麻痺しだしている・・・おい、車内何℃だよ!?
8時間耐久・極寒深夜バスツアーの始まりだ!
見渡すと乗客は皆
「この灼熱のキューバでどうしてそんなジャンパー持ってんだよ?」
と突っ込みたくなるような、完璧な防寒具を身にまとっている。
長袖1枚の命知らずなチャレンジャーは僕くらいだ。やばい・・・
すると、イギリス女だと思われる乗客が運転手にクレームをつけている!
ナイス、イギリス!!
ところが運転手は首を横に振るのみ。全世界共通“拒否”のポーズだ!
食い下がるイギリス女、それを一切受け入れない運転手。
イギリス女はあきらめて自分の座席に戻っていった・・・
1時間ほどして、この旅唯一の休憩時間が訪れる。
走るように車内から飛び降りると、ムッとした生暖かい空気が
僕の身体に体温を戻してくれる「あぁ、生きてるよ、僕☆」
そんな心境である。
乗客はみなバスを降り、運転手も車外に出てタバコを吸っていた。
すると、今度は運転手にベネズエラ女が挑みにかかる。
「私のカバンの中に入っているジャンパーを取り出したいから
この荷物の扉開けてよ!」
おぉ、この手があったか!僕を含めた数名は
座席地下にある荷室の扉の前に立ち、運転手がその扉を開けてくれるのを待つ。
「いや・・・目的地まで開けちゃいけない決まりなんで・・・」
誰だそんな決まりを作ったヤツは!呼んで来い!
そしてそんなルール守んなよ!おまえ、キューバ人だろ??なぁなぁでいこうぜ!?
しかし運転手は一向に扉を開ける気配を見せない。
そして運転席に戻って行ってしまった。
残された6時間、ノンストップでバスは目的地・ハバナまで走り抜け
どんどん下がっていく車内の室温は、10℃を切ったと思われ
奪われていく体温と格闘しつつ、ガチガチのパンを頬張りながら
「あぁ、エアコンで人って死ぬな・・・」
とか、ぼんやりと考えていた。
「2」(笑)。
投稿情報: UNIKO | 2007年3 月16日 (金) 13:22