日曜日、教会のチームの試合を観に行った。
彼らの元へ近寄ると、ひときわ歓声が起こる。
みんな僕を、いや僕の手にしているものを
ヨダレをたらしそうな笑顔で見つめている。
前回会ったときに「ねぇ、バット持ってない?」と聞かれていたので
試合の日に、僕のバットを持って行くことを約束していた。
挨拶そっちのけで、全員の視線が僕の赤いバットケースに注がれ
早くバットケースを開けろ!というオーラを全員が発している(笑)
そしてケースからバットを取り出すと
「ひぉおおおおお~~~~~~~~」というどよめき。
前回キャッチャーミットを取り出したとき以上の歓声。
「すげ~、俺ミズノの金属バット初めて見たよ!!!」
僕から1人がバットを取り上げると、
「オレに打たせろ!「いやオレが先だ!」と、試し打ちを始める。
気がつくと見知らぬ顔の連中まで試し打ちしている。対戦相手だ。
試合開始。
お互いのキャッチャーは、僕のキャッチャーミットを交互に使い
試合に出ている選手全員が僕のミズノのバットを使って試合をしている。
それを観客席から見つめる僕・・・なんかすごい光景だ(笑)
試合は結局、教会チームが1点差で負けてしまった。
そしてグラウンドから出てきた選手のほとんどが僕の元へ近寄り
この前知り合った、監督兼ピッチャーの彼が興奮気味に
「ねぇ、このバット売ってくれないかな!?20ドルとかで・・・」
と僕に話しかける。
その周りの連中も「うんうん」とうなずきながら
僕の返事を、固唾を呑んで待っている。
そして1人が、やや遠くから僕の元へ激走してやって来たかと思えば
僕のバットを手に掴みながら、僕に向かって
「うぉ~~~~~~!俺、このバット30ドルで買った!!!」
と、顔を真っ赤にして絶叫している。
対戦相手の4番バッターだ。
彼はちょっと癖のある僕のバットを、難なく使いこなし
キレイなヒットを何本も打っていた。
いや、もしあげるとしたら、僕はアンタに使ってもらいたい!
それくらい彼のバット使いは上手かった。
でも、ちょっと待て!気持ちはわかるが20ドルとか、30ドルとか
冗談で言ってるわけじゃねーよな(笑)
キューバのバットってそんなに安いのかよ!!
「日本でこのバットを買うと、250ドルするんだけど・・・」
僕が言うと、全員の肩の力が抜け
「あぁ~~~」などと
明らかに何かをあきらめたときのの声を出している。
僕はこの後、色々と、このバットを使う予定があるので
わざわざキューバまでこのバットを持って来ている。
悪いが今ここで500ドル詰まれてもこれを手放すわけにはいかない。
良かった、あきらめてくれたか・・・
そんなことを思っていると、あきらめの悪い数人が僕に詰め寄る
「オマエ、このバット何年使った?」「1年」
「じゃあさぁ、中古だよね!
ほらオレのこの金歯、3本あるんだけど80ドルくらいだよ!金!
交換しないか!?」
目がホンキなところが怖い(笑)
僕は笑いながらも「NO!」ときっぱり言い切る。
むこうもあきらめない。
「待って!ほら、このアディダスのスニーカー!!100ドル!!!
金歯とスニーカーでどうだ!?」
と言って、おもむろにお金を払われても欲しくない面持ちの
ボロボロでクタクタのスニーカーを脱ぎ出す。
「NO!」
むこうは少々ムッとしながら「このわからずやが!!」という表情だ。
もう埒があかない。
すると物分りの良い監督兼ピッチャーの彼が話題を変える。
「オマエ、サンタクララにずっといるの?」
「いや、もうすぐ出るよ」
「今度はいつサンタクララに来る?」
「秋」
「ほんとか!?またバット持ってくる??」
「うん」
「そうかそうか!じゃ、今度はオレのチーム入れよ!!一緒に野球やろうよ!」
「うん、ありがとう!」
そんなさわやかな一光景をジャマする、先程の金歯男。
「ダメだよ秋じゃあ!!だってオレ秋に軍隊に入隊するから戦争に行っちゃうもん」
これキューバ式ギャグなのか??
しかもこんなにからんでいる金歯男、オマエ、補欠で試合に出てなかっただろ(笑)
みんなと握手して別れる。
金歯男とも握手する。
「おい、またサンタクララに来るんだろ!?」
「うん、秋に」
「おう、じゃあ秋にな!!」
「あれ?軍隊は・・・」と僕が聞く
金歯男は肩をすくめて“冗談”というポーズを作った。
彼らを背にして、僕は一人球場を去る。
絶対にまた彼らに会いに来よう☆
コメント