「キューバの野球はプロ野球じゃないよ」と言う言葉を
キューバに来る前によく聞いた。
イタリア野球を知ってしまった僕は
どこからどこまでが“プロ”とカテゴライズしていいのか
その境界線が非常に曖昧になってしまっている。
きっと海外の人々から見たら
日本の社会人野球のシステムはプロ野球だと言う人もいると思う。
なので「プロ野球じゃないよ」と断定して話す
彼らの言葉に、逆に興味を持っていた。
今回僕がキューバで知り合った人たちは
おそらくキューバでも裕福な人たちだと思う。
家の中には海外の装飾品でいっぱいで、部屋は何部屋もあり
トイレだって衛生状態良く、ツマミ1つで水が流れるオートマチックだった。
彼らは皆、野球関係者で
野球、ソフトボールの指導を職業として生活している。
いわば“プロのコーチ・監督”。
給料はユニセフから、だいたい月に3万円~5万円もらえるそうだ。
選手たちは皆、給料をもらっていない。
キューバ国内には野球チームが16チームあり、だいたい11月から3月までプレーし
さらにその中で活躍した選手たちを4チームだったか8チームにまとめ
4月から7月くらいまでその選抜チームのリーグ戦を行う。
そしてさらにそのなかでも活躍した数人のみが
ナショナルチームの選手として世界大会やWBCに出場している。
キューバのシーズンオフは8,9,10月なのだが
だいたい世界大会や海外の試合は春、夏、秋と境なくやっているので
ナショナルチームに選ばれる選手はシーズンオフなく、ほぼ1年間野球をやっている。
そしてこれに選ばれる選手たちというのは1,2回選ばれるのではなく
何年間も選ばれるのが常だ。
「10年ナショナルチームでプレーした」というのも
キューバではそんなに珍しいことではないと思う。
で、彼らってどうやって生活しているの??という疑問が浮かんでくる。
人口わずかに日本の10分の1程度の国の人々が
WBCであそこまでの成績を残している。
当然アメリカや日本のプロと遜色のない
自国のリーグで、シーズン中は月曜日を除いた全ての曜日でプレーし
キューバ全国各地を忙しなくバスで移動し続ける。
ここに1つカラクリが存在する。
キューバは社会主義の国だ。
大義はよく知らないが、とりあえず国から給料がもらえるシステム。
野球選手たち(とくにピラミッドのトップにいる選手たち)はこれを上手く利用する。
ある選手は国に提出する書類の職業欄に『土木作業員』と記入し
ある選手は『パン屋の従業員』と記入してあるそうだ。
そうすると国から自動的に3~4万円の給料を毎月もらえる。
さらにナショナルチームに選ばれると特別給がもらえるそうなのだが
これは大会や拘束された日数によって金額が変わってくるらしい。
ちなみに去年のWBCに出場して、日本と戦ったある選手は
あの大会で7万円ほどもらったそうだ。かなり特別な金額らしい。
そしてナショナルチームに何年も選ばれる選手たちは
だいたい所属してるチームが、指導者への道を用意する。
彼らは球団所属の“学生”のような形になり
ユニセフに登録して、指導者の勉強を始める。
数年後、選手を終えた彼らはめでたく“プロの野球指導者”として
初めて給料を“野球関係者”としてもらうことになる。
そして、ナショナルチームに何年も所属し
「キューバの国のために活躍した」とされるスポーツ選手は
野球やその他のスポーツも含めて“特別年金”を手にする。
毎月7万円を自動的に手にすることになる。
日本にも来日経験のある、有名なキューバの野球選手たちは
だいたいこれらの対象者で、もうもらっているか、近い将来もらえるそうだ。
これは毎月死ぬまでもらえるばかりではなく
死後も家族が受け続けることができるそうで
キューバでは最高級の待遇だそうだ。
しかしナショナルチームに選ばれないような
キューバのほとんどの選手たちは皆シーズンオフに仕事をして
日々の生活費をこのときに稼ぐ。
僕の勝手な想像だが、キューバの人たちの月収は
地方によってや職種によっても違ってくるだろうが
およそ2万円~3万円が平均だと感じていた。
ナショナルチームなどに選ばれる選手たちは
所属チームから直接お金を渡されるわけではないが
色々と間接的な保護手段で彼らを野球に集中させ
それに炙れた選手たちは、野球を続けるためにシーズンオフに働く。
(というのは少し建前で
だいたいキューバの野球選手たちは20~30歳で
ほとんどの選手たちはシーズンオフに何もせず、ブラブラしているらしい。
彼らの親や家族たちが、彼らの生活を面倒見ているのが実情らしい)
それと、ある地方で僕に「このユニフォームを買わないか?」と自分の着ている
ユニフォーム売買を持ちかけてきた選手がいた。
上下で5000円。背中に背番号の入ったオリジナルである。
「もうちょっと高く吹っかけた方が良いよ!」
とでもアドバイスしてあげたかったが
「オレの友人にそういうことするな!」と、知り合いにこっぴどく怒られていた。
まぁ選手の中にはこうやって副収入を稼ぐ選手もいるんだなと(笑)
それからシーズン中の遠征生活費
食事や宿、移動用のバスなどは球団が全て面倒見ている。
食事はだいたい球場の一角に、選手や指導者専用の食堂があって
そこに行けば、いつでも無料で食べることができる。
そして試合前のべンチ内にはだいたいパンやフルーツなどが
置かれ、これも自由に食べることが出来る。
とにかくシーズン中、選手たちに不自由は無い。
そしてこれらを踏まえ、キューバ野球に携わる人々に
「キューバの野球ってプロ野球じゃないの??」
と言う質問を何度もぶつけてみた。
皆、一様に「う~ん、プロだと思うけどなぁ」
と発言していた。特に海外を知る選手・指導者たちほど
この言葉を使っていた。
なんかこの状況を見て、余計“プロ”と“それ以外”の
境界線が良くわからなくなってしまった・・・